谷中公一のソコまで聞いちゃう!?[2013年2月13日対談記事]3ページ/3

谷中:一応、助手ということで収入も安定しているし。あとはガレージの湿気とか、老朽化とか、そういう細かな心配でしょ(笑)?突風が吹いてきたときに赤土が入ってきたらどうしよう、とか(笑)。

土谷:アハハ(笑)!

谷中:ツッチーの心配って、今はそのぐらいだと思うよ。まあ、俺が勝手に言ってるだけなんだけど(笑)。

土谷さんが深刻な顔をしている画って思い浮かばないですけど、そういう経験は。

土谷:いや、引退を考えていた頃っていうのは、相当ピンチでしたよ。まあ、嫁さんの方が相当深刻に考えていたと思いますけど。アハハ(笑)。

谷中:笑い飛ばしてる。ホント、あっけらかんとしてるよね(笑)。

土谷:昔はこんな性格じゃなかったんですけどね。いつの間にかこんな感じになって(笑)。前はネガティブな人間だったんですけど。

谷中:やっぱりジョッキー時代のプレッシャーじゃない?乗り数が少ないと、どうしても頭の中には収入の心配もあったと思うんだよね。でも、引退してそういう心配も無くなってさ。助手になると結構アッサリ出来るもんね。未だにジョッキーとして競馬に乗りたいのは乗りたいけど、助手になってひと安心したというか。

土谷:はい。

谷中:俺なんか、収入が少なくて苦しいときを過ごして一時期ネガティブになったけど、ジョッキーを辞めてからまたポジティブになったよ。

もはやポジティブの塊ですもんね。土谷さんが引退を考え始めたのはいつ頃ですか?

土谷:辞める4年前くらいですね。(資料を見ながら)この年ですね、1勝しか出来なかった年に。もう古賀厩舎を手伝い始めていて、この1勝が古賀厩舎の馬だったんですけどね。

谷中:あ、そうなんだ。

土谷:で、辞めようって決断したのが、攻め馬のときに馬に膝を蹴られて骨折したんですよ。そのときになんでかは分からないけど、あ、辞めようと思って。その後も攻め馬に乗ったりはしていましたけど、そのときに「辞めよう」って思いました。

谷中:それが2009年か。ここら辺にきたら、お父さんもガミガミは言ってはこなかった?

土谷:特にないですね。自分から電話することがなかったんで。

谷中:辞める決断をしたときは?

土谷:そのときは電話しました。「そうか」みたいな感じでした。

谷中:ドラマだよね。今まであれだけ厳しかった親父が「そうか」とひと言。「今までご苦労さん」みたいな。最後は、引退レースっていう形でやったんだっけ?

土谷:いや、最後に乗るか?みたいな話もありましたけど、お断りしてそのまま乗らずに引退して。正直、そこで競馬に乗っちゃったら、また乗りたくなっちゃうじゃないですか。別に辞めたいわけじゃないですから。乗れるんだったら・・・。

谷中:乗り続けたいわけだからね、ジョッキーはね。

土谷:ジョッキー人生を振り返ってどうですか?

土谷:幸せだったんじゃないですか。僕は悪運が強いのか、大して目立った成績はあげていないわりに、面倒を見てくれる調教師さんがいて、細々と続けることが出来たなって。

谷中:19年だよね。俺も同じだわ、19年。やれればね、もっとやりたいなとは思うけどね。

ジョッキーから助手になって、生活に変化はありましたか?

土谷:変わりましたね。騎手時代って、結構自由時間があるじゃないですか。朝の攻め馬が終われば、あとは大体自由ですし。助手は午後も作業があるし、家に帰れないですね。

谷中:あと、馬を引っ張るという仕事がね。これがツラいんだよね。

土谷:そうですねー。馬を引っ張るのはツラいです。

谷中:ジョッキーって、馬に乗るのが専門の仕事だったからね。今は助手も持ち乗りをしないといけなくなってきたし、以前とはスタイルが変わっちゃっているからね。

土谷:これから攻め専がなくなっていっちゃいますよね。

谷中:そんななか、助手の仕事のやりがいはどんなところに感じていらっしゃいますか?

土谷:やっぱり競馬で走ってくれるとやりがいがありますよね。サンテミリオンがオークスを勝ったじゃないですか。あの頃はまだ騎手をやりながら古賀厩舎の調教を手伝っていて。あれは僕が骨折して乗れなかったとき以外はずっと調教で乗っていたんですよ。で、やっぱりあそこまで勝ったときに、乗り役とは違う喜びがあって。骨折して「騎手を辞めよう」と思っているところでサンテミリオンが頑張ってくれて、こういうのも悪くないなっていうやりがいみたいなものを感じられたことも、ジョッキーを辞める流れに繋がったと思います。

谷中:そうなんだ。本当、サンテミリオンの調教は完全にツッチーに任されていたんだもんね。

土谷:これがまた乗り役をやっていて良かったなっていうところで、攻め馬ではあまりプレッシャーを感じないんですよ(笑)。やっぱり競馬の方が相当なプレッシャーですよね?

谷中:それが元乗り役の強みだよね。助手たちはやっぱり、G1や重賞クラスのレースに出る馬に乗るときは緊張しちゃうんだよ。

土谷:そうなんですよ。緊張するんですよ。

谷中:だけど、俺たちはそうじゃないもんね。競馬の頂点のところを経験してきている強みって凄いと思うよ。ウチの厩舎にもクラウンロゼってクラシック候補が出たんだけど、今、攻め馬は俺ばっかりだもん。たまに他の助手に「乗って」って言っても「緊張しちゃうし、怖くてヤダ」って言うんだよ。

土谷:言いますよね、絶対に。そう言うんですよ。

谷中:別に本番で乗れって言ってるわけじゃないんだから(笑)。それでも、緊張して乗れないって。俺たち乗り役上がりは、こう調教を進めれば競馬でどこまで走れるかっていうのも手応えで分かっているし、厩舎にそういう人がいるのといないのは大きいと思うよ。

土谷:そうですね。

谷中:だから俺がいつも言っているのは、乗り役上がりの助手については、競馬新聞でも特別な印を付けてほしいなって。調教欄にさ。

土谷:アハハ(笑)!

谷中:スーパーとかスペシャルを意味するSとか。申し訳ないけど、競馬学校を卒業したてで助手になったばかりっていうアンちゃんと俺らじゃハッキリ言って全然違うもん。俺らも、その辺は一緒にしてほしくないなっていうプライドは持ってるわけで。乗り役上がりの助手は、調教欄に実名で載せればいいんだよ。「土谷」とか「谷中」って。

面白いですね。

谷中:いや真面目な話、馬券を買うときにかなり役立つ情報になると思うよ。まあ、新聞社の人間が大変だし、なかなか難しいとは思うけど、そうすれば、あ、この厩舎は勝負をかけて仕上げてきたな、とかファンにも分かるじゃん。本当、厩務員上がりと乗り役上がりでは、感覚の次元は違うから。古賀先生もツッチーに意見を聞いてくるでしょ?

土谷:大体そうですね。

谷中:じゃあ調教のとき、誰がどこでどの馬に乗るっていう番組もツッチーが作ったり。

土谷:そうなんですよ。僕、今ずっと番組を作ってるんですよ。

谷中:番頭的な仕事をしてるんだ。ああー、じゃあ大変だね。俺も阿部厩舎で番頭をやっていたことがあるから、大変さは分かるよ。あれ、ツラいんだよね。

土谷:大変なんですよ。僕、頭を使いたくないのに。本当、馬だけ乗っていたいんですよ。馬に乗っているのが楽しいんです(笑)。

谷中:本当、馬乗りは楽しいよね。まあ、番頭の仕事はやりがいとしてね。大変だけど、人からの信用を得るっていうのは良いよね。

土谷:そうですね。

ではそろそろお時間なので最後にお聞きしたいんですけど、土谷さんは今後、調教師になろうというお考えは?

土谷:全く無いですね。

谷中:前に俺も勧めたじゃん。ツッチー、なればいいじゃんって。

土谷:未だにいろんな人に言われるんですよ。僕ってそんなに調教師に向いていると思いますか?自分では全然そうは思わないんですけど。

谷中:他人の評価と自分の評価って違うからね。周りの人間が何人も言うんだから、やっぱり向いているんだよ。

土谷:乗り役から調教師になる人っていうのは、どういう気持ちでなるんですかね?僕なんかは、どっちかと言うと、馬に乗っていたいんですよ。

谷中:その先々を考えている人たちなんじゃない?

土谷:ああ、乗れなくなった後のことですか。

谷中:確かに、それはあるんだよね。俺も47歳になって感じるのよ。こうやって馬に乗っていられるのもあと2、3年ぐらいだろうと思うんだけど、その先のことは考えられないから。でも、調教師になった人たちはそういうことを考えていたんだろうなと思うし。50歳になったときにどうか、というね。

土谷:いやー、そこまで考えられないっす(笑)。

谷中:さすが!考えない「ザ・土谷スタイル」(笑)。そのブレない感じが素晴らしいね。ツッチー、今日は忙しいところありがとう。

土谷:ありがとうございました。

土谷智紀調教助手
土谷智紀プロフィール
1973年2月16日生まれ。日本中央競馬会(JRA)の元騎手で現在は調教助手。静岡県出身。2010年9月30日付で騎手を引退し、古賀厩舎の調教助手に転身。


谷中 公一

1965年長野県生まれ。1985年、美浦の阿部新生厩舎の所属騎手として騎手デビュー。JRA通算成績145勝(うち障害3勝)。初騎乗は1985年3月10日にヤノリュウホウ(8着)。同年6月15日イチノスキーで初勝利。現役中に騎手生活の厳しい現実を綴った著書「崖っぷちジョッキー」を発表。現在は天間昭一厩舎の助手として活躍中。同厩舎ではレッツゴーキリシマやクラウンロゼなどを担当した実績もある。またその傍らドッグガーデン「WANだら~」経営者としても手腕を発揮している。

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