東京大学名誉教授が射抜くワイド1点

[2012年3月25日]

【高松宮記念】スプリント戦とくれば

12畳の部屋の壁面に16連の本棚を並べた。低いものでも190センチ、高いものは240センチもある。もちろん倒れないように天井を支える板もある。大学を退職するから、三鷹に新しい仕事場としてのオフィスを借りた。それにしても壮観である。来週はここに本を運ぶ予定だ。


取り付け作業を手伝ってくれた若い連中のひとりとハシゴ酒。最後はお決まりの居酒屋「青夷」の暖簾をくぐる。GI前とあって競馬好きが集まっている。データ派の口撃機関銃ヤマが遠くに座っているから、いきおいこちらも口を開く機会が多くなる。「先生、いよいよ念願の肩書きのない名刺が作れますね」と連れの若い研究者が言った。この話の続きは長くなるから次回にとっておこう。


ところで、酔いすぎたせいか謎の馬券師リンさんは早々に席を立つ。「初の左回りでも(1)ロードカナロアで決まりですよ」と言い残していった。すかさず遠くから口撃機関銃が大砲に変身して「人気薄でも(14)グランプリエンゼルが怖いですぜ」と吠える。データ派が牝馬不利を承知の上で熟女を狙う方が怖いですぜ。隣にいた愛妻のミナ姉御は「勝てないかもしれないけど(16)ジョーカプチーノが美味しそう」と酔って潤々した眼で、きっぱりとご託宣。逃げ馬好きのマスターはこともあろうに追い込み馬の(3)アグネスウイッシュを狙うというから、どうやら異常気象の気配あり。


色とりどりに意見が別れたが、スプリント戦とくれば古い奴にはサクラバクシンオーが目に浮かぶ。産駒4頭から追い込み馬に乗ったときの武豊の(3)と休養明け2戦目で横典騎乗の(15)ダッシャーゴーゴーを狙ってみる。


(3)-(15) ワイド1点で勝負する

【by本村凌二】

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『ワイドの凌』よりひと言

昭和の「エースの錠」が拳銃を片手にのさばってから半世紀が流れた。平成を経て令和の世は馬券を片手に「ワイドの凌」でいきたい。狙い目はできるだけ少なく、基本はあくまでワイド1点勝負。ワイドは当たり馬券が3つもあるのだから、的は見えやすい。馬券は手を拡げると、あの馬も買っておけばよかったと悔やまれる。できるだけ狙い目を絞れば、そんな後悔もせずにすむ。人生は短いのだから、ストレスをかかえこまず、心ゆたかに競馬も馬券も楽しむこと。それがこの世界で長生きする秘訣である。

本村 凌二

1947年5月1日、熊本県八代市生まれ。
東京大学名誉教授。
専門は古代ローマの社会史。専門の近著に『ローマ帝国人物列伝』『一冊でまるごとわかるローマ帝国』

「もし馬がいなかったら、21世紀も古代だった」という想念におそわれ書き起こした『馬の世界史』が2001年JRA馬事文化賞を受賞。その他の競馬関連の近著に『競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで』(中公新書)。20世紀のペンネームは本村雅人。

ハイセイコーが出走した1973年の第40回東京優駿日本ダービーから、第57回を除き、毎年東京競馬場でライブ観戦するなど、日本の競馬にも造詣が深い。
夏から秋にかけてはヨーロッパで過ごす事が多く、ダンシングブレーヴが制した、あの伝説の凱旋門賞や、タイキシャトルが勝ったジャック・ル・マロワ賞。また、シーキングザパールが日本調教馬として初めて海外GI競走を制したモーリス・ド・ギース賞などをも現地でライブ観戦している。競馬と酒をこよなく愛する、知る人ぞ知る競馬の賢人。

伝説の凱旋門賞
勝ち馬ダンシングブレーヴの他、ベーリング、シャーラスタニ他、JCにも参戦した鉄女トリプティク、そして日本ダービー馬シリウスシンボリも含め出走馬15頭中11頭がGI馬という当時としては最強のメンバーが集結したレース。そんな好メンバーの中、直線入り口最後方から全馬をまとめて差し切り勝ち、しかも当時のコースレコードのおまけ付だった。

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