東京大学名誉教授が射抜くワイド1点

[2015年10月31日]

【天皇賞(秋)】東京の長い直線だから

「もうすぐ80歳になりますが、今日は人生でもっとも感動しました」とは、菊花賞馬キタサンブラックの馬主であるサブちゃんの泣かせる科白である。演歌の大御所は緑のターフの上で公約だった「まつり」を唄ってくれたのだった。

吉祥寺の居酒屋「青夷」の競馬常連組はそろって討死。母の父に短距離王サクラバクシンオーをもつ血統だの、ダービーでの不甲斐ない惨敗だの、とが目に焼きついているせいで、およそ3000メートルの長距離はもつまい、と誰もが判断した。その小賢しい見識がはずれて、色とりどりの馬券の花がみごとに散った。

とはいえ、回復するのも早い。もともと過去を嘆かない人間でなければ、馬券常連組にはなれないのだ。口撃機関銃ヤマなど「皆で負ければ怖くない」とばかりに大はしゃぎ。凝りもせずデータ並べて「⑯イスラボニータはウスラボケータにはならず信頼できる」と得意顔である。ギャンブル狂師ミノ先生は「同世代の4歳牝馬ハープスターとヌーヴォレコルトよりも⑮ショウナンパンドラは強くなった」と鼻息荒い。逃げ馬好きのマスターは、ここぞとばかりユタカ騎乗の⑨エイシンヒカリに、かつて4コーナーで潰えた同騎乗のサイレンススズカの逃げ切り勝の夢を託す。

出走馬18頭中ディープインパクト産駒が9頭もいる。東京の長い直線だから

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『ワイドの凌』よりひと言

昭和の「エースの錠」が拳銃を片手にのさばってから半世紀が流れた。平成を経て令和の世は馬券を片手に「ワイドの凌」でいきたい。狙い目はできるだけ少なく、基本はあくまでワイド1点勝負。ワイドは当たり馬券が3つもあるのだから、的は見えやすい。馬券は手を拡げると、あの馬も買っておけばよかったと悔やまれる。できるだけ狙い目を絞れば、そんな後悔もせずにすむ。人生は短いのだから、ストレスをかかえこまず、心ゆたかに競馬も馬券も楽しむこと。それがこの世界で長生きする秘訣である。

本村 凌二

1947年5月1日、熊本県八代市生まれ。
東京大学名誉教授。
専門は古代ローマの社会史。専門の近著に『ローマ帝国人物列伝』『一冊でまるごとわかるローマ帝国』

「もし馬がいなかったら、21世紀も古代だった」という想念におそわれ書き起こした『馬の世界史』が2001年JRA馬事文化賞を受賞。その他の競馬関連の近著に『競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで』(中公新書)。20世紀のペンネームは本村雅人。

ハイセイコーが出走した1973年の第40回東京優駿日本ダービーから、第57回を除き、毎年東京競馬場でライブ観戦するなど、日本の競馬にも造詣が深い。
夏から秋にかけてはヨーロッパで過ごす事が多く、ダンシングブレーヴが制した、あの伝説の凱旋門賞や、タイキシャトルが勝ったジャック・ル・マロワ賞。また、シーキングザパールが日本調教馬として初めて海外GI競走を制したモーリス・ド・ギース賞などをも現地でライブ観戦している。競馬と酒をこよなく愛する、知る人ぞ知る競馬の賢人。

伝説の凱旋門賞
勝ち馬ダンシングブレーヴの他、ベーリング、シャーラスタニ他、JCにも参戦した鉄女トリプティク、そして日本ダービー馬シリウスシンボリも含め出走馬15頭中11頭がGI馬という当時としては最強のメンバーが集結したレース。そんな好メンバーの中、直線入り口最後方から全馬をまとめて差し切り勝ち、しかも当時のコースレコードのおまけ付だった。

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