東京大学名誉教授が射抜くワイド1点

[2015年1月5日]

【金杯】勝利の美酒が飲めるなら

16世紀後半のフランスといえば宗教戦争が荒れ狂っていた。その乱世のさなかに田舎の領地に隠棲して、自己、人間、生死をめぐる想いをつづったモンテーニュは長大な『エセー』を残している。この名著は古今東西の知識人に計り知れない影響をおよぼしたという。

そのなかの一節「わたしをはらはら、どきどきさせてくれるような情熱は、わたしには恋愛しかない」が心にかかった。私なら「若いころなら恋愛もいいとして、今なら競馬こそがはらはら、どきどきさせてくれる」と言いたくなる。競馬ファンでいられることに、あらためて僥倖を感じる新年だった。

ところで、暮の居酒屋「青夷」に集えば、まずは有馬記念の反省会で盛り上がる。レースの数日前、ある馴染の寿司屋の若旦那が「先生、トゥザワールド狙いというのはどうですか」と訊いたので、どこかで聞いたことのある「ドブに捨てた方が音がするだけましでしょう」と答えて一笑にふしたから、わがことながら始末におえない。なるほど、弥生賞1着、皐月賞2着と中山コースに実績があるのだから、狙えない馬ではなかったはず。

後の祭りと笑っておられず、もはや金杯の予想と気が早い。データ派の口撃機関銃ヤマは、中山金杯は4歳馬軽視、京都金杯は内枠圧倒的有利をぶちまけて、新年早々とびきりの美味い酒を飲むつもりらしい。それでも、中山は58キロの④ロゴタイプ、京都は57.5キロの⑧グランデッツァを狙うという。両ハンデ頭で順当な狙いだが、半信半疑というところだ。

さて、中山金杯

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『ワイドの凌』よりひと言

昭和の「エースの錠」が拳銃を片手にのさばってから半世紀が流れた。平成を経て令和の世は馬券を片手に「ワイドの凌」でいきたい。狙い目はできるだけ少なく、基本はあくまでワイド1点勝負。ワイドは当たり馬券が3つもあるのだから、的は見えやすい。馬券は手を拡げると、あの馬も買っておけばよかったと悔やまれる。できるだけ狙い目を絞れば、そんな後悔もせずにすむ。人生は短いのだから、ストレスをかかえこまず、心ゆたかに競馬も馬券も楽しむこと。それがこの世界で長生きする秘訣である。

本村 凌二

1947年5月1日、熊本県八代市生まれ。
東京大学名誉教授。
専門は古代ローマの社会史。専門の近著に『ローマ帝国人物列伝』『一冊でまるごとわかるローマ帝国』

「もし馬がいなかったら、21世紀も古代だった」という想念におそわれ書き起こした『馬の世界史』が2001年JRA馬事文化賞を受賞。その他の競馬関連の近著に『競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで』(中公新書)。20世紀のペンネームは本村雅人。

ハイセイコーが出走した1973年の第40回東京優駿日本ダービーから、第57回を除き、毎年東京競馬場でライブ観戦するなど、日本の競馬にも造詣が深い。
夏から秋にかけてはヨーロッパで過ごす事が多く、ダンシングブレーヴが制した、あの伝説の凱旋門賞や、タイキシャトルが勝ったジャック・ル・マロワ賞。また、シーキングザパールが日本調教馬として初めて海外GI競走を制したモーリス・ド・ギース賞などをも現地でライブ観戦している。競馬と酒をこよなく愛する、知る人ぞ知る競馬の賢人。

伝説の凱旋門賞
勝ち馬ダンシングブレーヴの他、ベーリング、シャーラスタニ他、JCにも参戦した鉄女トリプティク、そして日本ダービー馬シリウスシンボリも含め出走馬15頭中11頭がGI馬という当時としては最強のメンバーが集結したレース。そんな好メンバーの中、直線入り口最後方から全馬をまとめて差し切り勝ち、しかも当時のコースレコードのおまけ付だった。

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