東京大学名誉教授が射抜くワイド1点

[2013年10月6日]

【凱旋門賞】妻はキズナ、愛人はオルフェ

1986年10月5日、初めてロンシャン競馬場で凱旋門賞を見た。

12番のゼッケンを付けたダンシングブレーブが並みいる強豪たちを怒涛ごとく差し切った場面は鮮やかにこの目に刻まれている。前年の日本ダービー馬シリウスシンボリも参戦したが、およそ勝負にならなかった。今でも史上最高のレースという呼び声が高い。あのころは自分が生きている間に日本馬が凱旋門賞を勝つことなど想像もできなかった。

あれから今年で12回目の凱旋門賞観戦。だが、30年ほど前なら想像を超えた出来事がおこるかもしれない、という時にいる。齢も重ねたが時代も変わったのだ、とつくづく思う。

今年もパリの留学生たちとのロンシャン詣でになる。金曜日の夜は彼らのなじみのレストランで盛り上がった。なにしろ、イギリスのブックメーカーの予想では、オルフェーヴルが3倍前後で1番人気、キズナが8倍前後で4番人気なのだから、期待も高まり、酒が入れば胸がはち切れそうになる。

日本より7時間遅いパリの早朝。フランス唯一の競馬新聞「パリ・チュルフ」をながめながら、吉祥寺の居酒屋「青夷」の常連たちから頼まれた凱旋門賞馬券を確認している。皆の夢は、馬はオルフェーヴルに勝たせたいが、騎手は武豊に勝ってもらいたいというところ。

競馬ファンの男なら、妻からキズナの単勝を、愛人からオルフェーヴルの単勝を頼まれたら、どう祈ればいいのだろうかというところだろう。

日本の競馬ファンの大方の夢でもある。

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『ワイドの凌』よりひと言

昭和の「エースの錠」が拳銃を片手にのさばってから半世紀が流れた。平成を経て令和の世は馬券を片手に「ワイドの凌」でいきたい。狙い目はできるだけ少なく、基本はあくまでワイド1点勝負。ワイドは当たり馬券が3つもあるのだから、的は見えやすい。馬券は手を拡げると、あの馬も買っておけばよかったと悔やまれる。できるだけ狙い目を絞れば、そんな後悔もせずにすむ。人生は短いのだから、ストレスをかかえこまず、心ゆたかに競馬も馬券も楽しむこと。それがこの世界で長生きする秘訣である。

本村 凌二

1947年5月1日、熊本県八代市生まれ。
東京大学名誉教授。
専門は古代ローマの社会史。専門の近著に『ローマ帝国人物列伝』『一冊でまるごとわかるローマ帝国』

「もし馬がいなかったら、21世紀も古代だった」という想念におそわれ書き起こした『馬の世界史』が2001年JRA馬事文化賞を受賞。その他の競馬関連の近著に『競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで』(中公新書)。20世紀のペンネームは本村雅人。

ハイセイコーが出走した1973年の第40回東京優駿日本ダービーから、第57回を除き、毎年東京競馬場でライブ観戦するなど、日本の競馬にも造詣が深い。
夏から秋にかけてはヨーロッパで過ごす事が多く、ダンシングブレーヴが制した、あの伝説の凱旋門賞や、タイキシャトルが勝ったジャック・ル・マロワ賞。また、シーキングザパールが日本調教馬として初めて海外GI競走を制したモーリス・ド・ギース賞などをも現地でライブ観戦している。競馬と酒をこよなく愛する、知る人ぞ知る競馬の賢人。

伝説の凱旋門賞
勝ち馬ダンシングブレーヴの他、ベーリング、シャーラスタニ他、JCにも参戦した鉄女トリプティク、そして日本ダービー馬シリウスシンボリも含め出走馬15頭中11頭がGI馬という当時としては最強のメンバーが集結したレース。そんな好メンバーの中、直線入り口最後方から全馬をまとめて差し切り勝ち、しかも当時のコースレコードのおまけ付だった。

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