それでもデビュー後はスムーズにスタートを切れているし、順調ということで。成績を見ても既に2勝をあげられて。
伴:良かったです。道中は掴まっていただけでしたよ。
谷中:せっかくだから、初勝利のときの話を聞かせてよ。
伴:初勝利っすか。これはもう、本田先生も「勝てる」とは言っていませんでしたけど「勝てるでしょ」みたいな雰囲気だったんで。うわー、ヤッベ、緊張するな~って思っていて。
谷中:そんな感じだったんだ。
伴:前のレース映像を見て、ゲートを出れば逃げて、あとは馬次第だなと思っていたんです。で、ゲートを出れたんで、もう道中は本当に、頼む、頑張ってって思っていて。
谷中:ペースが速い遅いっていうのは。
伴:そんなにバーッて逃げたつもりもなくて、最初にシュッシュッて手綱を動かしたくらいで。で、1枠1番に嶋田先輩がいて、嶋田先輩もちょっと行こうとしていたんですけど、僕の方がちょっと態勢が有利で、ゴーグル越しに目が合ったかどうか分からないですけど、嶋田先輩が「行けないな」と思って引いてくれて。これはやったな、と思いました。あそこで来られていたら、また分からなかったですけど。
谷中:ああ、一緒に競って行っちゃったらね。
伴:そうですね。でも、あそこで引いてくれたんで、これはイケるでしょ!って思って。
谷中:最後も結構余裕があったんじゃない?
伴:手応えはあったと思うんですけど、僕は後ろの差とか全然分からなくて、最後まで必死でしたよ。終わってビデオを見てみたら、え?こんなに差があったの?って感じでした。6馬身くらいありました。
谷中:1200で?凄いね。ブッチだね。
伴:強かったです。
谷中:でも、それだけ離していても余裕はなく。まあ、ターフビジョンを見るわけでもないだろうしね(笑)。
伴:そうですね(笑)。とりあえず必死に追っていました。
谷中:伊藤先生と本田先生って仲が良いよね?
伴:すごく仲が良いです。
谷中:何の繋がりだろうね。お互いに何か握り合ってるんじゃないかな。
伴:アハハ(笑)!そんな変な感じじゃないですよ。もっと良い関係でしょ(笑)!
谷中:俺、どうも最近ヒネくれてるな(笑)。美談を素直に受け入れられないな。初勝利は嬉しかったでしょ?
伴:あのときは、メッチャ嬉しいっていうよりも、うわ、良かった~と思って(笑)。
谷中:ああ、プレッシャーがあったからね。
伴:だから2勝目の方が、感情的には嬉しかったですね。やったーって。2勝目は、ただ嬉しかったです。
谷中:(資料を見ながら)関西の池添先生の厩舎の馬なんだ。タガノレオーネ。これは2番人気だったけど、初勝利のときみたいなプレッシャーは感じてなかったの?
伴:そうですね。僕は勝てると思っていました。
関西馬だから、調教に乗っていたわけでもなく、レースのときに初めて乗りますよね。レース前にどういう準備をするんですか?
伴:僕は、過去のレース映像を見て、レース前には厩務員さんにクセを聞きます。みんな大体「特に問題ないよ」って言うので。
谷中:目を伏せがちに「と、特に問題はないよ…」って。
伴:そんな(笑)。逆に不安になるじゃないですか。
谷中:そういう怪しいのは自分で見抜かないとね(笑)。
伴:自分の担当している馬のクセを隠さないでしょ(笑)。ちゃんと伝えてくれますよ。
谷中:これまでのレースもビデオで見るんだ。
伴:見ますね、メッチャ見ます。
谷中:乗っていた先輩に聞いたり。
伴:そうですね。
人に聞いていた感じと、自分が乗った感じが違うなってこともあるでしょう。
伴:それはあります。何かで読んだような気がするんですけど、あんまり先入観を持つなって…。
谷中:うん。伴君はね、伸びる。今いろいろ聞いていたらそう思った。やっぱり、乗る前にいろいろとイマジネーションを働かせて、イメージを作ってっていう感じじゃん?で、乗ったら、ご覧のとおり「なるようになれ」って感じじゃん。
臨機応変って感じで。
谷中:そうそう。それが良いんだよ。今の若い子たちってさ、レース中に考えちゃう子が多いのよ。そうなると、迷って後手後手を踏んじゃうんだよ。レースの最中はさ、考えているヒマなんてないじゃん。
伴:そうですね。
谷中:考えて動こうと思ったら、もう遅いわけじゃん。イメージを最初に作っておいて、競馬のときには体が勝手に動いていくっていうのが良いんだよね。時代の申し子だよ。来たね。来たよ、伴。時代が来たよ。
伴:来ましたかね(笑)。
谷中:よっしゃ、やったね。
先にデビューした先輩たちが、なかなか思うように勝てないという現状もあるわけじゃないですか。自分がデビューしてどうかな、とか、そういう見通しはどう考えていました?
伴:自分がデビューしたら、ですか。まあ、負けないだろうとは思っていましたよ。
谷中:おー、頼もしいねー。
伴:関西の中井先輩と菱田先輩がポンポンと勝っているんで、僕もあんな感じになれたらな、くらいしか思っていなかったです。
谷中:そうなんだ。
伴:で、三角だったらデビューした年は関係なく、みんなひとまとめで見られるじゃないですか。黒三角だったら黒三角、白だったら白で。その中で「コイツが今勝っているみたいだから乗せてみよう」ってなるんじゃないかと、僕はそう思っているので、とりあえず黒三角の中で目立てるように頑張らないと。
谷中:そうすれば、黒三角のなかで「伴が最近勝っているな」みたいに思ってもらえれば、グッと騎乗依頼が集まるよね。好循環に入ればグングン依頼が来るようになるよ。
伴:だから、僕は先週のタガノレオーネには懸けてましたね、かなり。2週続けて勝ったら、周りの見る目が変わってくれるんじゃないかな、と思って。自厩舎の助手さんたちも「頑張れよ」って言ってくれて。あの週はかなり力が入っていました。だから嬉しかったなー。
谷中:それでちゃんと結果を出すんだから凄いことだよね。「ここで勝ったらインパクトが違う」って、やっぱ考えているんだね。
伴:考えていますよ。
谷中:で、またさ、伸び伸びしているのが良いね。もがいてる感じじゃないんだよね。もがき苦しんでいる子が多いなか、伸び伸びしているからね。
伴騎手は、自分で頭の切り替えは早い方だと思いますか?
伴:そうですね。でも何か失敗したときは、もちろん引きずらないようにはしますけど、やっぱり引きずっちゃいますよね。ああーって。まあ、でも次のレースでそれをやらなきゃいいわけだから、大丈夫ですね。
谷中:やっぱ向いてるわ~。本当にジョッキー向きの性格をしてるわ。
伴:全然、感情がこもってないですよ(笑)。「向いてるわ~」って。
谷中:感情がこもってないのは、お互い様だろうよ(笑)。
伴:そんなことないっすよ(笑)。
似たもの同士かもしれないですね(笑)。
谷中:とにかく伴君は、ジョッキーはこういう感じの考え方でちょうど良いって、俺がよく言っているパターンに当てはまってるよ。
あと、谷中さんがよくおっしゃっていることといえば、よく遊びなさいってことなんですけど。遊ばない男はダメだ、と。
谷中:そう。それだよ。
伴:それ、よく言われます。先輩たちもみんな言いますね。
谷中:あれ、伴君はもうハタチ?
伴:今年の6月でハタチになります。
谷中:それなら、もうね。黒三角のうちは表立って派手には出来ないけど、裏ではよく遊び、よく…遊び。学ばなくていいから、よく遊び、みたいなね(笑)。
もはや遊んでばっかですね(笑)。
谷中:まあ、遊びと仕事を分けて、どっちも徹底的にやればいいんだよ。とことん仕事をして、とことん遊んで、って。中途半端は良くないよ。
伴騎手は、気持ち良く稼いで、気持ち良く使いそうな雰囲気がありますけど。
伴:そうですか?やー、結構使わないかもしれないです。
今までの人生のなかで、一番大きな買い物は何ですか?
伴:えーっと、こないだ兄貴に買った時計かな。
谷中:お、家族孝行してるね。
伴:初出走をしたときの騎乗料で、親二人にプレゼントを買って。で、兄貴と仲が良くて、兄貴がデビュー祝いにネックレスを買ってくれたんで、そのお返しで時計を買いました。
谷中:兄弟の構成はどうなってるの?
伴:兄ちゃん、姉ちゃん、妹です。
谷中:そっか、俺も兄ちゃんになっちゃおうかな~。
何かプレゼント的なものを期待されてるみたいですけど、その前に伴君に施してないとダメですよ(笑)。
谷中:あ、そうかそうか。何か伴君にプレゼントをしておけばいいのね。
エビで鯛を釣る気満々ですね。
谷中:満ち満ちてるよ(笑)。ロレックスの一個や二個を買ってくれるかな、と思って。
欲望がらみの話が出たところで、そろそろ時間もアレですし最後に聞きたいんですけど、伴騎手の今、一番欲しいものを教えてもらえますか。お金で買えないものでもいいですよ。
伴:欲しいもの…、うーん、あれが欲しいな、ガガミラノの時計が欲しい。
谷中:ガガミラノ?
伴:分かります?サッカーの本田圭祐が着けていて、嶋田先輩も持っているんですよ。ガガミラノの時計が欲しいなって思っていて、嶋田先輩の部屋に行ったら「持っているよー」って。
谷中:あ、嶋田君って、ももクロの時計しか持ってないかと思ってた。5色揃えて、今日は赤、みたいな(笑)。違うんだ、ガガミラノね。
伴:カワイイんですよ、あの時計。
谷中:ファッションに興味があるんだね。
伴:僕、メッチャ服を買いますもん。「買い過ぎ!」って親に怒られるくらい買いますよ。
谷中:どこかのブランドが好きとかあるの?
伴:いや、見た目にこだわるんで、ブランドにはそんなにこだわらないです。
谷中:「夜露死苦」って背中にプリントされてたり。
伴:うーん、ちょっと違うね。
谷中:スイマセン(笑)。ハタチにたしなめられました、48の親父が。
伴:だいぶ違う、いや、かなり違う(笑)。
アハハ(笑)。でもその時計も服も、いずれお金を稼げば手に入れることが出来るでしょうし、まさに今欲しいものって感じですね。
谷中:いいんじゃない、そういう目標を持って。そのガガミラノの時計で一番欲しいやつはいくらなの?
伴:多分、谷中さんが思っているより安いですよ。20万ちょっとくらいかな。僕からしたら超高いですよ。
谷中:いや、俺にしたって20万の時計は安くないよ。でもぶっちゃけ、買えるくらいのお金はあるでしょ?
伴:まあ、買えますけど、何かイヤじゃないですか。もっと余裕がないと。この段階であの時計を買っちゃって大丈夫かなって。
谷中:じゃあ5勝目のときに買おう、とかさ。そういうのが良いよね。蓄えを取っておいて、節目のときに買う、と。
伴:そうですね。
谷中:5勝目でガガミラノの時計を買って、10勝目でランボルギーニを買って。
伴:買えないでしょ(笑)!ムリムリムリ!
谷中:いや、俺の頭の中には外車を乗り回してる伴君の姿がイメージ出来てるよ(笑)。でもホント、伴君は伸びるからさ。頑張っていこうよ、楽しくね。
伴:楽しくないとダメですよね。楽しく頑張りましょう。
応援しています。今日はありがとうございました。
伴:ありがとうございました。
1965年長野県生まれ。1985年、美浦の阿部新生厩舎の所属騎手として騎手デビュー。JRA通算成績145勝(うち障害3勝)。初騎乗は1985年3月10日にヤノリュウホウ(8着)。同年6月15日イチノスキーで初勝利。現役中に騎手生活の厳しい現実を綴った著書「崖っぷちジョッキー」を発表。現在は天間昭一厩舎の助手として活躍中。同厩舎ではレッツゴーキリシマやクラウンロゼなどを担当した実績もある。またその傍らドッグガーデン「WANだら~」経営者としても手腕を発揮している。
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