橋本:助手になって、自分が調教した馬を騎手に委ねるわけですけど、谷中さんはレースを見ていて歯がゆくなることが多くないですか?
谷中:歯がゆいことだらけだよ(笑)。
橋本:1頭の馬が出来る過程って、産まれたときからデビューするまで、長いスタンスで考えるといろんな苦労があるんですよね。馴致から始まって、鞍着け、ゲート試験と。
谷中:本当、時間と手間がかかっているよね。
橋本:で、騎手がよく言う言葉に「次に繋がるようにサラッと乗ってきました」っていうのがあるんですけど、サラッと乗ってきてもらったら困るときが多いんですよ。ちゃんとひとつひとつのレースを、きちんと乗ってきて欲しいんですよね。藤沢先生のおかげで、騎手時代から、そういう厩舎スタッフの気持ちを分かってレースで乗っていたつもりだったんですけど、伊藤圭三先生の厩舎で助手になって、もっと痛感しています。
谷中:助手になるとそうだよね。自分らがジョッキーだったから余計にそう感じるよね。
橋本:昔の自分より、もっともっと深く馬を大切に…、馬を怒ってばかりではなく、良い調教が出来る糧になったかなというのは実感します。今ぐらい分かっていれば、騎手時代にもうちょっと勝てたかな、みたいな(笑)。
谷中:でも、今のような気持ちでジョッキー時代に乗れていたらもっと勝てたかもっていうのは、どうかなあ。逆に考え過ぎちゃって、勝てなかったかもしれないよ。ジョッキーは、すぐ次に頭を切り替えないといけないじゃん?そのときそのときのレースに集中しないといけないし、相手のあることだから全てパーフェクトに乗れるわけでもないし、ある程度はしょうがないや、って切り替えられないと、当時のハッシーみたいには勝てないよ。
橋本:あー、確かにいつまでもクヨクヨしていられないですもんね。…あの、話が変わるんですけど、谷中さん、いまだにジョッキーの頃の夢を見ません?
谷中:見る見る。
橋本:僕、最後の方は体重で苦労したんで、いっつも見るのが、中山競馬場の検量室で体重を量るところからスタートして「体重を量ります。はいオーバーです」って言われる夢なんですよ。
谷中:悪い夢じゃん(笑)。
橋本:そういう悪夢を何度も見ます。谷中さんは良い夢を見るんですか?
谷中:そうそう。俺は常に東京競馬場のパドックに向かう自分とか。いまだに見るよ。そのまま記憶の中に維持されているのかな、と思うな。本当に何度も同じ夢を見るから。
橋本:1回だけ正夢になって欲しいっていう夢を見たんですよ。もう引退も近いかなという頃、マークリマニッシュっていう逃げ馬にオークスで乗せてもらったときなんですけど。レースの前日に調整ルームで見た夢で、オークスを逃げ切ってガッツポーズをしているんですよ。「やった!G1ジョッキーになれた!って……夢かよ!」みたいな(笑)。次の日のオークスは13着でダメだったんですけど。
谷中:でもさ、それは良い夢だよね。
橋本:そうですね。良い夢って、そのマークリマニッシュの夢が最初で最後ですね。そもそも騎手の頃は競馬の夢って見ませんでしたよ。で、騎手を辞めてからは体重の夢で。ドキドキの余韻が長くて目が覚めるんです。「ハアハア、夢で良かった」みたいな。
谷中:息切れまでしちゃって。ハッシーは良い思いばっかりだったかと思っていたけど、よっぽど体重のことで苦労したんだね。
えー、まだまだお話を伺いたいところなんですけど、お時間が来てしまいました…。最後に、橋本さんの今後の目標を聞かせてもらえますか?
1965年長野県生まれ。1985年、美浦の阿部新生厩舎の所属騎手として騎手デビュー。JRA通算成績145勝(うち障害3勝)。初騎乗は1985年3月10日にヤノリュウホウ(8着)。同年6月15日イチノスキーで初勝利。現役中に騎手生活の厳しい現実を綴った著書「崖っぷちジョッキー」を発表。現在は天間昭一厩舎の助手として活躍中。同厩舎ではレッツゴーキリシマやクラウンロゼなどを担当した実績もある。またその傍らドッグガーデン「WANだら~」経営者としても手腕を発揮している。
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