芝適性とダート適性
芝コースは基本的に路盤が硬いため、地面の反動をモロに受けやすい。反動を抜くためにクッション性が求められるが、一般的に「乗り味が柔らかい」と称される馬に芝での活躍馬が多いのは、筋肉や各関節が柔らかい=クッション性に秀でているからであり、馬体構造で言えば繋ぎの角度や長さ、蹄の構造などが主に関係している。
繋ぎが短く立っているとクッションが利きづらく、地面を蹴ることで生まれる推進力を上手く活用することが出来ない。ゆえに芝を得意とする馬は繋ぎが長めで、角度も寝ている傾向にある。
脚元、こと蹄に関しては馬場状態とも密接にリンクしており、一般的に論じられているように「高速馬場=路盤が硬い」と捉えて良い。速いタイムの出る芝では総じて水分の含有率が低い分、グリップ力が高まる。蹄の薄い馬が良馬場向きとされるのは、蹄が薄い=相対的に地面との接地面積が増えるからであり、高いグリップ力が生まれる馬場状態であれば、より大きな推進力を得ることが出来るからである。
写真提供:競馬ラボ
こちらはロードクエスト。立ち写真を見ても分かるように繋ぎが長めで、蹄も薄い。これまでに重賞3勝を挙げているが、夏の新潟・秋の中山開幕週・良馬場で直線平坦の京都…といずれもスピードの出やすい馬場状態で勝利している。典型的な芝の良馬場タイプと考えて良いだろう。
一方で、雨や雪が降って水分を含んだ状態、または芝が剥げて路盤に凹凸が発生してグリップ力が低下する「重馬場」「荒れ馬場」では、蹄の薄い馬は地面との接触面積が増える分、重馬場ではノメりやすくなり、荒れ馬場では地面をしっかりと掴むことが難しくなる。相対的に良馬場ほどの推進力を得ることが出来なくなるため、転じて「蹄の薄い馬は道悪が苦手」とされる。
写真提供:競馬ラボ
こちらはエポカドーロ。ロードクエストとは対照的に蹄も小さく、分厚く見える。脚元の造りが立っているため横方向へ逃げるエネルギー量が少なく、路盤がフラットな状態で無くても、地面をしっかり掴んで走ることが出来る造りだ。好位から抜け出した皐月賞は稍重の馬場も味方したのだろう。良馬場のダービーで2着に入っているように絶対能力の高さはお墨付きであるが、時計の掛かる馬場ではよりパフォーマンスを上げてくることだろう。
路盤が硬い芝コースとは異なり馬場自体にクッション性があるため、筋肉や関節が柔らかすぎる馬の場合、路盤をしっかりとグリップして推進力を生むことが難しくなる。そのため、芝馬と比較して乗り味や歩様が硬い馬がダートで活躍する傾向にある。
また、ダートは8~10数センチ(中央競馬は9センチで統一、地方は競馬場により異なる)の厚さで敷設されているため、当然だが蹄は砂中に沈むこととなる。ダート馬に繋ぎが短く立っている馬が多いのは、単純に砂との接触面積が少なく、より速く脚を抜き上げることが出来るからである。所謂「道悪ダートは高速馬場」というのは水分を含むことによって砂圧が薄くなり、脚元との接地面積が少なくなって時計が出る状態になっていることを示す。「脚抜きの良いダート」の語源はココから。
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こちらはアンジュデジール。ディープインパクト産駒は蹄が薄く、また繋ぎも寝ている馬が多い傾向にあるが、当馬は繋ぎこそそれなりにゆとりある造りながら、蹄が地面とほぼ垂直に近いレベルで立っている。この造りなら余分なエネルギーを消費することなく、砂から脚を抜き上げることが出来るだろう。ダートで好成績を残しているのも納得だ。